(37)安富町 『植木野天神のムクノキ』

 安富町植木野に昭和49年3月、兵庫県の天然記念物に指定された「植木野天神のムクノキ」がある。このムクノキに関わる伝説があると聞き取材した。
 好天候だが冬型の寒い日、同町教育委員会を訪ね、川畑信幸事務局長と同町文化協会の小坂隆雄会長にお出会いして話し合ったあと、小坂会長にお願いして伝説の現地へ案内していただいた。
 同町中心部の安志地区から国道29号線を南へ約3㌔。ガソリンスタンドに隣接した信号機のあるところを左折。町道にはいって林田川にかかっている護持越橋を通り200㍍ほど東方へ進むと植木野天満神社があり、その境内にびっくりするほど大きなムクノキがそびえ立っていた。根元の直ぐそばには「兵庫県天然記念物・植木野天神のムクノキ」と刻み込まれた石柱が建ち、どでかい幹には地元の人たちが力を合わせて作られた大きなシメ飾りが巻き付けられていた。
 宍粟郡文化協会連絡協議会が発行している「しそうの文化財」に記録されているこのムクノキの大きさは根周り10.5㍍、目通り幹回り6.2㍍、樹高18.6㍍、枝張りは東へ8㍍、西へ10.1㍍、南へ13.2㍍、北へ8.5㍍。老木の風格を備え見事に整った樹勢は県下有数の巨木として価値が高い、とも記されている。ムクノキの太い幹の中心部には大きな穴があいており、この空洞は昔、落雷を受けたキズあとだといわれている。同天満神社で、お目にかかった植木野地区の山下茂老人会長と小坂文化協会長から聞いた話と同町老人会発行の「伝承安富」を参考に、想像もまじえて「植木野天神のムクノキ」に関わる伝説をつづってみた。

 むかし、昔のこと。毎年、旧暦の10月(神無月)に全国各地の神様が出雲の国(現在、島根県)の出雲大社へお集まりになり、それぞれの神社の氏子の男・女の縁結びについて、いろいろの話し合いをされていた。植木野の天神さまも、この集会にご出席なさっていた留守中のこと。同地区にかつてない大きな出来ごとが起こった。
 晩秋というのに何時(いつ)にもなく暖かい午後のこと。植木野地区一帯は心地(ここち)よい青空が広がっていた。ところが、なぜか一天にわかにかき曇り″ピカー!ピカー!″と目を刺すような稲光。″ゴロ・ゴロ!″と耳をつんざくばかりの雷鳴がとどろいて激しい雷雨が来襲した。田んぼや畑で仕事をしていた村人たちは、あわてて家の中にかけ込み、目を閉じ、両手の平で耳をふさぎ、小さくうずくまって雷が行き過ぎるのを待った。しかし、長いあいだ雷雨が続き″ピカー!ゴロ・ゴロ!ドスン!″と、あちこちに落雷。カヤ茸きの屋根にでかい穴があいたり、火災が発生するなど思いもかけぬ大被害をうけた。この時、雷の一つが天満神社のムクノキを直撃、幹に大きな穴があいた。
 雷の大きな被害をうけ、村人たちが嘆き悲しみ、途方に暮れているとの情報を伝え聞いた天神さまは出雲の国から急いで植木野地区にお帰りになり、村人たちを慰(なぐさ)め、励ましたうえ、みんなと「これから植木野には落雷がないようにしてあげましょう」と約束。「幹に空洞の出来たムクノキも枯れずに成長するように…」と、天に向って長時間にわたって祈願された。それからは同地区に激しい雷雨があっても雷が落ちたことがなく、ムクノキもどんどん大きく育ったという。

 山下老人会長は「子供のころは友だちと一緒にムクノキに登ってよく遊びました」「七十歳になりましたが、私が物心ついてから今までには植木野地区に落雷の被害があった覚えはありません。天神さまの祈願のお陰でしょうか…」と話されていた。
      (2003年3月掲載:山崎文化協会事務局)

植木野天神のムクノキ