(16)一宮町 生栖 『疣(いぼ)地蔵さん』

「疣地蔵さん」

 「一宮町生栖の梶原に疣(いぼ)をとって下さるお地蔵さんがおまつりしてある」との話を聞き、同町の前文化協会長、庄一幸さんに案内をお願いしてお地蔵さんを訪ねた。

 一宮町から但馬に通じる県道沿いの梶原地区から東側の山へ向う細い道を15㍍ほど行った山裾(やますそ)にお地蔵さんがまつられていた。ハスの花弁を型どった径15㌢ほどの台座に据えられた、およそ30㌢の石のお地蔵さんで、台座のまわりには小さな石が一面に積まれていた。
 庄さんの話によると、このお地蔵さんは古くから 〝疣(いぼ)地蔵さん″と呼ばれ「疣(いぼ)をとって下さる」というので近在の人たちのおまいりが、あとを絶たないという。一宮町史には「お地蔵さんの台座のまわりの玉石一個を借りて家に持ち帰り、毎日かかさず〝お地蔵さん、どうか疣をとって下さい″と、念じつつ疣を撫でていると、いつとはなしに疣がとれてしまうといわれている。望みが叶えられると借りていた玉石に自分が川原で拾った新しい石を一つ添えてお返しのお礼まいりをするのが慣(なら)わしになっている」-大要-と記載されている。

 想像だが次のようなことがあったのではないか?とつづってみた。

 昔、ある秋の早朝、梶原の農家に諸国巡礼中だという、みすぼらしいお坊さんが訪れ、居間から出てきたおばあさんに「但馬から夜通し山道を歩いて、やっとここに着いた。くたびれたので、ひと休みさせて下さい」と乞(こ)うた。おばあさんは心よくお坊さんの願いを聞き入れ、イロリの間に案内して休んでもらった。ぽつり、ぽつりの会話だったが、そのうちおばあさんは、お坊さんが、きのうからなにも食べていないことに気付き、急いでカユをつくり、漬物を添えてふるまった。
 しばらくすると、お坊さんは元気を取りもどし、おばあさんに「ありがとうございました。なにかお困りのことがあったら言って下さい。私のできることなら、なんでもいたします。」と言い、これに答えておばあさんは「足の裏に疣ができ、歩くのに痛くて不自由しています。疣がとれればいいんですが…」と頭を下げた。
 さっそく、お坊さんは谷川に出かけ、拾った玉石に懸命に念仏をとなえ「この石で疣を撫でてみなさい」と、おばあさんに玉石を手渡し「仏様があなたに〝疣とり″のご霊験をおさずけ下さった」と言い残して立ち去った。おばあさんは玉石で足の裏の疣を撫でていると、いつのまにか疣がすっかりなくなった。それ以来、おばあさんは、近在で疣ができて困っている人たちに、お坊さんからもらった玉石で〝疣とり″を続け大変よろこばれた。
 おばあさんは天寿をまっとうしたが、生前の〝疣とり″の好意に報いるため市九郎さんという人が施主となってお地蔵さんを建てたが、このお地蔵さんが、いまも〝疣とり″の霊験をお持ちだという。
           (1999年9月掲載)